履行遅滞による解除
http://www.xdelta.net/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95/%E5%82%B5%E6%A8%A9/%E5%A5%91%E7%B4%84/%E8%A7%A3%E9%99%A4/%E5%B1%A5%E8%A1%8C%E9%81%85%E6%BB%9E%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%A7%A3%E9%99%A4.html履行遅滞による解除権の発生要件
契約の一方の当事者が遅滞にある時は、相手方は相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行されなかった時は、契約を解除することができる(第541条)。
の3つである。
履行遅滞があること
債務者が同時履行の抗弁権を有する時は、債務者は自己の負担する債務について履行の提供をしなければ、債務者を遅滞に陥れることはできない。
しかし、この提供の程度を厳格に解すると、不誠実な債務者にも口実を与えることになる。そこで、判例は信義則に従い、債務者のなすべき提供の時期と程度を緩和することに努めてきた。
- 確定期限の定めある債務については、債権者がその時期に提供すれば、債権者がその後に催告するにあたって、提供を必要としない(大判昭3.10.30)。解除においては、本来の給付の請求の場合と異なり、解除権者は債務の履行による利益は少ないから、提供を継続しなくてもよいのである。
- 期限の定めのない債務(確定期限に当事者双方が履行の提供をしない場合も同じ)については、債権者は催告と同時に提供すれば足りる(大判大10.6.30)。
- 催告に示された履行期が一定の日時である場合には、債権者はその日時に提供すればよい(最判昭36.6.22)。債務者がその日時を徒過すれば遅滞に陥り、債権者は提供を継続しなくてもよい。
- 催告に示された履行期が一定期間内とされた場合には、債権者はその期間内は提供を継続*1しなければならないが、債務者がその期間を徒過すれば遅滞に陥り、債権者は提供を継続しなくてもよい。
- 双務契約の解除の場合には、債務者は自己の債務の履行を怠り、相手方の債務の履行を受領することを拒もうとするのだから、債権者側の提供は事情によって相当に軽減される(債務者に履行の意思が全くないことが明白な場合など)。
債務者が履行期を徒過すること(遅滞にあること)は、解除権発生の要件であって、催告の要件ではない。
第541条の催告を厳格に解すれば、契約の一方の当事者が既に遅滞にある場合に初めてなす必要がある。しかし、付遅滞のための催告と解除権発生のための催告との二重に催告を必要とすることは手間がかかりすぎる。履行遅滞にあることは、あくまでも解除権発生の要件に過ぎない。
- 期限の定めのない債務については、債権者は履行の請求(第412条第3項、催告)をすれば、その催告期間内に自己の債務の提供をして相手方を遅滞に陥れれば、重ねて催告しなくても解除することができる(大判大6.6.27)。
- 確定期限の定めある債務についても、当事者双方が期限を徒化した場合は、期限のないものとなり、二重の催告は不要である(大判大10.6.30)。
*1商品を引渡す場合などは、その期間中に買主が代金を持参して引渡しを求めれば、何時でも引渡せるだけの準備をしておかなければならない。
催告すること
- 催告とは、債務者に対して債務の履行を促す債権者の意思の通知*2である。催告の内容は、履行すべき債務を示し、かつ、相当の猶予を与えて履行を促さなければならない。
- 催告における債務の表示は、その同一性が認識し得る程度であればよい。
- 債権者は催告にあたり相当の期間*3を示さなければならない。
- 期間が相当でない場合の催告も有効*4と解されており、催告期間が相当でなくても、催告後に相当の期間が経過することによって解除権が発生する。
- 債務者が予め履行を拒絶している場合でも、催告は必要*5である。なぜなら、債務者が催告に応じて、履行拒絶の意思を翻すこともありうるからである。
- 賃貸借契約のような継続的契約関係においても、第541条は適用される*6。
*2第412条第3項の「履行の請求」と同じ性質を有する。従って、期限の定めのない債務については、付遅滞のための催告(第412条第3項)の後にさらに第541条による催告をする必要はない。
*3「相当期間」とは、契約関係を支配する信義則に従って決すべきである。すなわち、「相当期間」とは、債務者は履行遅滞にあるのだからこれから履行の準備をして履行をするのに必要な期間ではなく、既に履行の準備を整えた債務者が履行をなすのに必要な期間である。
*4なぜなら、無効とすると、債権者が期間の不相当な催告を何回繰り返しても解除権は生じないことになるが、不履行債務者の利益をそれほど保護すべき理由はないし、催告期間が相当でない催告を無効とするか否かも契約関係を支配する信義則に従って決せられるべきである。そうだとすると、催告の意義は、債務を履行しない債務者に翻意を促して履行をするように意志表示がなされれば足り、相当期間は債務者に履行をなすに必要な客観的期間が経過すれば足りると解されている。
*5催告をしないで解除することができる旨の特約があれば、その契約は一般に有効とされ催告の必要はない。もっとも、そういう特約が有効か否かは、契約の具体的事情や信義則に従って判断しなければならない。
*6もっとも、判例は、継続的契約関係が当事者相互の信頼関係を基礎とすることを理由として、賃借人がその信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為をした場合には、第541条の催告をなさずに直ちに賃貸借関係を解除しうるものとする(最判昭27.4.25)。